NHKスペシャル「シリーズ日本新生 仕事と子育て 女のサバイバル 2013」が放映されました。この番組を見ながら考えたことを書いてみたいと思います。2013年4月6日放送
限られた時間の「討論」とはいえ,女性の就労を妨げているのは「中高年の『粘土層』である」(粘土層とは柔軟な考え方が浸透しない,古く頭の固い連中という意味)といった批判,「妊娠を口実に仕事に専念できない女性への批判」など,「働く女性」からの機銃掃射が目立った。番組の最後になって,デーブ・スペクター氏が「専業主婦も素晴らしい仕事をされていることを忘れないでほしい」と補足されたのが唯一の救いである。
この番組では,「育児の社会化」と「女性の就労」がテーマになっていたようだが,前者の内容についての資料提示がほとんどなかったために,「女性の就労妨げるもの」を摘発するだけの内容に終始していた。
今,日本の経済社会にとって「子育て,育児の社会化」をどこまで,どのように進めるかが重要な課題であることに言を俟たない。ドイツ,フランスの諸制度から学ぶべきことがたくさんある。しかし,厚労省は過去20年以上にわたって「育児支援」を掲げながら,いまだに保育所整備の問題に四苦八苦しているだけである。
日本の社会保障において「子育ての費用」を社会化(社会的に支援)する政策は余りにも貧弱と言わざるをえない。産休をとる場合の「出産手当金」は正規雇用に限られ,母子家庭への「児童扶養手当」は厳しい所得制限がかけられており,それもドイツやフランスで一般家庭が受け取る「児童手当」と比較してみれば決して多いとは言えない。さらに,共働き家庭のための保育所整備への国庫負担は「私立保育所」に限られている。日本の一般家庭への「児童手当」(月額1万円程度)を含めて,そこに費やされる公的資金は,すべての費用を足し合わせても,介護保険給付の半分(4兆円)にも満たない。
また,公立高校の授業料の公費負担は,ようやくにして実現しているが,大学・高専,専門学校など高等教育にかかる大きな学費は個人負担であり,奨学金も「返還義務」が課されている。他のどの国で奨学金に利子をつけて返還を迫る制度があるのか,官僚・政治家の皆さんにはぜひ教えて頂きたいものである。
次世代の若者を育てることは,社会人すべての責任であり,経済社会の最大の課題である。しっかりとした基礎学力と意欲があれば,いつでも大学や専門学校で学ぶことができる経済保障を整える必要がある。せめて国公立大学の学費を高等学校と同じ水準に引き下げ,奨学金は「給与」として充実すべきである。
もちろん,大学,専門学校といった教育機関の責任も大きい。しかし,国立大学の教職員の給与は約10%引き下げられている。優れた研究者がこの国の大学・研究機関から流出している。給与を下げられた教職員の1人として,学生が支払う学費の総額と,学部経費の総額を比較してみたら,学費の総額が上回ることがわかった。少なくとも神戸大学経済学部,経済学研究科の学生・院生は,支払った学費に相当する教育・研究支援を受けていない。これが財務省と文科省の支配を受ける国立大学の現状である。