2011年4月24日日曜日

ドイツの特別養護老人ホーム(ディアコニー福祉財団)

 4月18日(月)午後3時,
 シュベービッシュ・ハルでの目的のひとつ,特別養護老人ホームへの調査訪問を実施しました。
 4月12日(1週間前)にディアコニー福祉財団の施設へメールを出して,さらに調査票を作成,これも事前にメールで送りました。私のドイツ語はおそらく間違いだらけであろうと思いますが,それでも
Gottlob-Weißer-Haus の Margarete Greinerさんから施設への訪問を歓迎してくださるとのメールを頂きました。また,ゲーテインスティチュートの学生で商社に勤めていらっしゃる塩田さんに,念のため通訳の手助けをお願いしました。
 18日当日,1時間余りの調査訪問が実現しました。緊張すると私のドイツ語はまさにしどろもどろになりましたが,それでも事前準備のおかげで質問の意図を理解していただき,回答も繰り返し聞き直しながら確認を取り,(途中,私のドイツ語の添削指導もありましたが…),インタビューは期待以上の成果を上げました。





 
 今回訪問したゴットロープ・ヴァイサーハウスは,ドイツの特別養護老人ホームでも「平均的なクラス」のものです。
 一番気になる費用から説明します。
 ドイツでは要介護認定が3段階しかありません。「日本で5段階ないし6段階に分けているとは,さぞ管理事務が大変でしょう」とのこと。
 要介護度に応じた介護保険からの給付があります。これはどの居室にいても,個室,アパート,相部屋を問わず,また別の施設でも変わりません。
 要介護Ⅰ:1,023€(12万2760円)/月額  
 要介護Ⅱ:1,279€(15万3480円)/月額
 要介護Ⅲ:1,510€(18万1200円)/月額
 このように日本の介護保険に比べて保険給付額は6割程度にすぎないことがわかります。
 逆に個人負担が多いわけです。入所者は平均5年居住していますが,最近は病院から重篤な状態での入所が増えており,1年ないし2年以内で亡くなるケースも多いとのことでした。

 この施設での介護にかかわる費用は,要介護Ⅲで月額:2,538€(304,560円) です。
 この金額に投資コストが居室によって決まっています。2人部屋ですと1日5€(600円),30日分で150€(1万8千円)が別に必要となります。アパートメントタイプの場合,居室料金は,1日14€(1,680円)で月額(5万400円)と高くなります。
 要介護度Ⅲでは,総費用から介護給付を差し引いた,月額1,712€(20万5440円)が「自己負担」となります。これは二人部屋という最も安い部屋での計算であり,アパートメントタイプですと2,042€(24万5040円)が自己負担になります。
 日本と比べて随分と高いことがわかります。だからほとんどの人は自宅での介護サービスを依頼しています。また,生活保護の対象者には,より安い施設もあります。ただし生活環境は日本の特別養護老人ホームと変わりません。日本の特別養護老人ホームはもともと生活保護のレベルを基準に作られてきた経緯がありますから,4人部屋やそれ以上の人数を1室に収容してきました。ドイツでも,施設の設備とサービスを下げれば,介護給付に多少を上乗せした金額で入所できるわけです。
 繰り返しますが,ディアコニー福祉財団の施設は,ドイツの平均的なレベルの施設であり,上記の費用は「平均的」とのこと。入所者は,年金のすべてと自己の資産を使い,また,場合によっては子どもや家族の支援を受けて入所しています。その費用が賄えなくなると,より安い施設へ転落することも「仕方のないこと」と誰もが納得しているのだ,との話でした。
 なお,ドイツではディアコニーのような平均的な施設のほかに,生活保護の対象者や低所得者向けの特別養護老人ホームから高額所得者用の施設までバラエティーに富んでいます。シュベービッシュ・ハルという3万数千人程度の町にも4か所の特別養護老人ホームがあります。それらに訪問調査をいらしましたが,他はすべて断られました。あまり見せたくないからでしょう。
 この問題について,ゲーテインスティチュートのスタッフ数人,ディアコニーのマルガリータさんにも意見を聞きました。どの施設でも介護給付は同じです。しかし,居室の内容や食事,その他のサービスが違います。これが「社会的市場経済なのです」と同じ言葉が返ってきました。
  
 ディアコニーのサービス内容
 日本と大きく違うのは,介護サービス,リハビリテーション,そして食事です。
 介護に関しては,まず入浴回数は決まっていません。ほとんど毎日,お風呂かシャワーを希望されるので,入浴は1人ひとりの要望に合わせています。「それが当たり前でしょう」とおっしゃっています。
 リハビリを,施設内のスタッフが行うことはありません。
 リハビリは病院や他の機関から専門家が派遣されて,運動リハビリ,言語,ヒーリング,手遊びなどさまざまなメニューが提供されます。これらの費用がどのように支払われているかという詳細は聞くことができませんでした。ただし,ドイツではリハビリは一般に医療保険の対象になりますから,介護保険ではなく,医療給付として提供されているはずです。
 食事は,大食堂で手の込んだ料理を食べるのは「昼食」だけです。朝と晩は各階の小さなキッチンで料理したものを各階の食堂で食べます。ドイツ人の食事は,基本がパンとハムや卵,野菜炒めであり,日本に比べて簡単な調理で済むから,朝と晩は至極簡単なのです。
 
 課題
 マルガリータさんによれば,この施設でもアルツハイマー型の痴呆症が増加していることが大きな課題になっているとのことです。アルツハイマーのための施設が隣に併設されていました。

   
 この施設は,すべて個室です。各部屋にバス,トイレがあり,それが認知症施設の一般的な設備となっているとのことでした。入所者は,センサー付きの腕輪を携行しており,施設の敷地は自由に散歩できます。園芸を楽しんだり,外の空気を味わうこともできます。建物から外へ出て自由に動き回ることができるわけです。
 そして,このディアコニーの施設では,絵画作品の指導に力を入れています。壁には入所者が描いた絵がたくさん飾られており,その展示会も催されて,地域との交流を図っている。絵画指導はリハビリの一環として,地域との交流のためにつづけられているとのことでした。
 最後に介護に携わる職員の人数と給与についてもご紹介しておきたいと思います。
 まず,入所者の人数は,要介護Ⅲが22人,要介護Ⅱが38人,要介護Ⅰが39人,そして要介護認定が出ていない人が22人います。合計で,121名の入所者がいます。
 介護職員は,17歳から62歳まで,総勢54名体制です。
 そのうち外国から来ている介護職員は8名だけですが,これは地域によって大きく異なってきます。シュツットガルトなどの都市部では,ポーランドをはじめその他の外国人労働者による介護職員が多数に及ぶが,この田舎では地域の人材で十分に間に合う,とのことでした。
  さて,ドイツの介護専門職には3つの資格があります。54名全員が正規雇用の立場で働きますが,育児や家庭の事情で,フルタイムで働く人は3割,70%がTeilzeit (パートタイム)です。しかし,このパートタイムは日本での意味とは異なります。フルタイムの職員の給与や待遇を基準に労働時間に応じた所得が保障されます。

 Pflegefachkraft 介護専門職,年間所得は,所得税と社会保険料を差し引いた実額で,およそ44,000€(528万円),職員の58%がこの職にあります。
 Pfelegehilfskraft 介護支援員,年間手取りで,37,000€(444万円),
   Betreuungskraft 介護補助員とでも訳しましょうか,これは2008年に新たに設けられた職種で,上記の2つの職種の補助を行います。年間手取り収入は,34,000€(408万円)です。
 これらの金額は手取りですから,人件費としてはもっと高くなるわけです。
 ちなみに勤続年数は平均10年以上とのことで,介護職員の定着率は日本よりも高く,60歳を超えても働いている人が少なくないとのことです。
 日本の介護福祉士や介護支援専門員の所得と比べていかがでしょうか。
 
 

 
 

 

シュベービッシュ・ハルで出会った人たち(2)ドイツに暮らす日本の若い女性たち

 4月16日(土)の朝,私はシュベービッシュ・ハルの朝市をぶらぶらしていました。土日はスーパーやすべての店が休みになりますので,住民はみんな朝市で買い物をするようです。新鮮な野菜,魚,肉類,パン,チーズをはじめさまざまな特産物も並んでいます。まるでお祭りのようにテントが立ち並び多くの人でにぎわいます。

 毎週土曜日にこうした朝市があり,大勢の人でにぎわう生活環境は,新鮮でありかつ出会いの舞台でもあると思います。
 そんなことを考えながら歩いていると「こんにちわ」と後ろから声をかけられました。振り向くとドイツの若い男性がいます。「あなたが私を呼んだの?」「日本語を話すの?」と尋ねると,彼はにこにこしながら,日本人への関心を話してくれました。その隣に日本人の若い女性がいました。
 数分間の自己紹介の後,昼食を誘われてそのまま彼と彼女(日本人)の家に参りました。
 すると11時ごろでしたか,次々と日本人の若い女性がドイツ人や他の国の男性と手をつないで現れます。そのときには3カップル,日本人女性は3人と出会いました。シュベービッシュ・ハルに何人の日本人が暮らしているのかをたずねると,若い女性が7~8人いるとのことです。
 20代前半の若い日本人女性が,この片田舎の町に7~8人も暮らしているとは驚きです。ドイツ人や他国の若い男性と仲睦まじくふるまう彼女らを見ていて,当然の問いが出てきます。
 「なぜ,ここで暮らしているのか」「きっかけは何か」「将来のことをどう考えいるの」
 その返答は,誰もが私と同様に最初はゲーテインスティチュートの学生をやって,少なくとも数か月のドイツ語のトレーニングを受ける中で,ドイツ人や他の若者と知り合い,恋人になり,共に暮らすことになった。ただし,将来の目標や計画もそれなりにあって,ドイツの大学へ進学してドイツで職を探したいとの夢もあれば,いずれ日本に帰国してドイツでの経験を生かした生き方をしたい,という人もある。まったくもって「自由自在」との印象を受けました。
 面白いのは,同様の考え方をもつ「日本人男性は皆無」とのことです。
 ドイツ人にとって日本の女性の魅力がどこにあるのかは定かではありません。おそらくはドイツの女性は実に「勝気」で自分の意思を貫く,かたくなな人が多い。その点,日本の女性は「かわいげがある」という違いでしょうか。私も十名以上のドイツ人女性と話をしましたが,若い女性でも「自分の意思」を貫く!ドイツ語では’ドュルヒゼッツェン’というたくましさ,頑固さを感じます。正直言えばドイツ人女性との会話は疲れる。とくに,おばさんあたりになると,ドイツ語の口調も荒っぽく,「なんで私のいうことが分からないの!」としかりつけるように話をします。もっとも私のドイツ語のヒアリングが下手だから,「いい加減に分かってよ!」と言いたかったのかもしれませんが。
 同時に,日本の若い女性が何を求めているのか,少しわかったような気もします。
 「自由」「自己実現」「冒険」「やさしく具体的な愛情表現」…
 目の前でキスをしたり抱きついたりする若いカップルに囲まれながら,日本の男性のはがゆなさをも感じる,ひと時でした。

 

2011年4月23日土曜日

シュベービッシュ・ハルで出会った人たち(1)

 3月27日から4月22日までシュベービッシュ・ハルに滞在しました。この間に,月曜から金曜の午前はゲーテインスティチュートのドイツ語講座を受講し,午後は自分の研究に充てていました。
 実際のところ,ドイツ語の宿題やゲーテインスティチュートのインベント(エクスカーション)が多くて自分自身の仕事はあまり進んだといえません。
 さて,シュベービッシュ・ハルという田舎町に4週間ほど滞在するなかで,いろいろな出会いがありました。ドイツ語学校の同級生には,トルコ人4名,アメリカ人3名,中国人1名,シンガポールから1名,韓国人1名がいました。とくにトルコ人の男性3名とは2回のパーティーを通じて懇親を深めることができました。
 トルコ人への印象は,たいへん失礼な話ですが,イスラム教,ドイツでの外国人労働者の最大多数を占めることという程度しか知らなかったので,今回の旅で彼らの文化,人柄,考え方と身近に接することで『私の中の偏見」がかなり薄らいだと思います。
 クラスメイトのなかでは,私が最年長でした。パーティーの際には,「最年長者はここに座ってゆっくりしてほしい」と大事にされ,「トルコの文化についてどう思うか」「何を知っているか」と質問され,何も知らないことを白状して,イスラム教の文化を教えてもらいました。
 一言でいえば,われわれ日本人とその倫理観や社会性は変わらないことがわかります。家族を大事にして,まじめに誠実に働く。服装や髪形にも厳しい制限があり,役人やしかるべき立場の人は,自らの風貌にも責任をもってきっちりしなけばなりません。


 トルコの食事で気に入ったのは,お米を巻いて炒めたもの,小麦粉を練ってシロップにつけたデザート,小麦粉の生地に細かくした牛肉とスパイスを乗せて焼いたピザ,いずれも美味しくいただきました。
 シンガポールから来た実業家(リーさん)は私の1つ年下ですが,実にまじめで人の世話をよくしてくれる面倒見の良い人です。ドイツ語の発音はめちゃくちゃで,おかげで辞書をずいぶんと使いました。コミュニケーションの大半は辞書を使わないと通じない,といった具合です。
 アメリカ人の夫婦がいました。ヘイグ夫妻はシドニーに暮らし,夫婦で旅行することが楽しみだそうですが,ドイツ語も2週間だけ習いに来ていました。彼はシュベービッシュ・ハルの風景をたくさんスケッチして,廊下に展示するほどの腕前です。この夫婦ともよく話をしましたが,明るく親しみやすく,ぜひいつか再開したいと思います。
 このようにゲーテインスティチュートのなかでいろいろな外国人と親しくなれたことは意義深い経験であったと思います。