2012年3月2日金曜日

2012年フィリピン調査旅行

2012年2月20日から28日にかけてフィリピンへの調査旅行を実施しました。
参加者は,追手門学院大名誉教授の矢谷先生,大学院の山岡君,学部学生12名です。
今回の調査旅行も,フィリピンのコアNGOのフィルドラ(PhilDHRRA)の協力を仰ぎ,イリガ市のファティマセンターに5日間,マニラ市とケソン市で孤児たちの里親ケアプログラムを20年近く実践しているNGOノルフィル(NORFIL),セント・アナ教会地区のまちづくりを担うNGOなどを訪問しました。
フィルドラ・パートナーシップセンターにて

レガスピ空港,マヨン火山を背景に

2月21日,マニラからビコール地方,レガスピ市へ移動しました。この地域では毎年,火山噴火,台風による被害が絶えません。


昨年9月の台風によって,橋が倒壊し,この地域では2千人以上が犠牲になっていました。

ファティマセンターの創始者,シスター・エタ
日本人の篤志家による支援に感謝されています。

ファティマセンター
  Acronym: FACE
Type of Organization: NGO
Head of the Organization: Sr. Felicitas de Lima
Designation: Executive Director
Address: San Agustin, Iriga City
TeleFax No.: (63)(54)29- 92289

ファティマセンターが運営する山村の部落小学校

日本の支援によって山村地域の子どもたちへの教育支援,地域開発を担うNGO カザフィ(CASAFI)訪問
 Acronym: CASAFI
Type of Organization: NGO
Head of the Organization: Fr. Nelson Tria
Designation: Executive Director
Address: Liboton St., Naga City
Telephone No.:
(63)(54) 473-9550 / 473-4174
TeleFax No.: (63)(54) 473-4175
ファティマセンターに滞在中にカザフィNGOを訪問し,貧困地域の子どもたちへの教育支援,コミュニティ開発事業についての説明を受けました。この事業には日本からの支援金が大部分を占めています。繰り返し日本への感謝の言葉を頂きました。



ノルフィルの里親さんと孤児
私たちは6軒のお宅を訪問し,里親となる経緯や苦労についてお話を聞きました。
Acronym: NORFIL
Type of Organization: NGO
Head of the Organization: Angela Maria Pangan
Designation: Executive Director
Address: 16 Mother Ignacia cor. Roces Avenue, Quezon, City
Telephone No: (63)(2) 372-3577 to 9
Fax Number:
(63)(2) 373-2169
Email Address: norfil@philonline.com.ph


 まず,ファティマセンターでは,学生の英語によるコミュニケーション能力を高めること,フィリピンの孤児たちの生い立ちや孤児院の在り方について考え,議論することを目的としました。
 マニラ市とケソン市では,里親ケアプログラムに参加している6軒の家を訪問し,学生は2人ペアとなって里親制度について丁寧なヒアリングにつとめました。
 今回の調査旅行では3回に渡ってNGOスタッフとのディベートを行いました。とかく英語での会話力が乏しいと批判されますが,フィリピンの貧困問題についての原因と対策をテーマに準備したうえで討論会を試みました。


フィリピンの貧困問題
 フィリピンの貧困問題への支援はドイツ,カナダを筆頭に多くの先進諸国の人びとによって取り組まれています。ドイツだけで1億ユーロを超える支援が行われ,日本からも3000万ユーロを超えています。
 それにもかかわらず,子どもの貧困,虐待,孤児の問題は後を絶ちません。一般的には,いまだに巨大地主(約500家族)が国土の大半を所有しており,農地改革が進んでいないからだと理解されています。
 マニラを中心にここ数年の近代化・産業化の進展は目覚ましいものです。超高層のマンション,オフィスビルが立ち並び,数年前に道路脇にひしめいていたバラックは,マニラの中心街からは一掃されています。しかし,マニラ,ケソンの周辺部には今もスラムが残っています。中心部から排除された人々は,ダンプサイト(ごみ処理場)周辺に集まり,今も最悪の生活環境のなかで,ごみの分別,資源回収に従事しています。
 ルソン島南部,ビコール地方も貧困地域です。世界中のNGOによる支援は,マニラ,ケソンの貧困地区とビコール地方の農村に向けられています。
大地主が農民を収奪し,マニラ市やケソン市へと貧しい若者が移動する構造は,この10年余りまったく変わっていません。経済社会の構造が変わらない限り,フィリピンの貧困問題,子どものの社会問題に解消の見通しは立たないことがわかります。

農地改革とNGOへの支援
 では,今後どのような経済社会の構造変化が期待できるのでしょうか。
 NGOはほとんどが「農地改革」の推進こそが最大の課題であり,産業社会の発展からは,外資系企業からの寄付金に期待を寄せています。CSR(Corporate Social Resposibility)に参加する企業を増やすことです。これはNGOへの寄付金を課税控除できる制度であり,日本企業ではトヨタなど多くの企業が協力しているとのことでした。
 
子育て支援(フィリピンの児童手当)
 また,近年マニラ政府が取り組んでいる子育て支援(児童手当)としてCCT(Conditional Cash Transfer)があります。この制度はタガル語の省略で4Ps(Pantawid Pamiliya Philippine Program)とも呼ばれています。
 子ども1人あたり月額300ペソ(600円)が3人まで支給され,母親が妊娠している場合には500ペソ(1000円)が追加され,最高1400ペソ(2800円)が現金で支給されます。ただし,子どもたちが小学校,高等学校に通っていることを証明する書類と妊婦は健康診断を定期的に受けているとの証明が支給条件です。財源の2分の1は世界銀行からの融資による政府事業です。現政権(ノイノイ・アキノ)の間は継続が公約されていますが,財源問題からいつまで継続可能かは定かではありません。

農業の近代化による浮浪民の増大が予想されます
 農村を幾度も訪問する中で感じていた違和感があります。それは貧困地域の農村でも自動車やバイクの普及が目覚ましいこと,その反対に農業機械は使われていません。トラクターや田植え機,稲刈り機はなく,脱穀もすべて手作業です。モータリゼーションが急速に進んでいるのに,耕作機械がありません。
 圃場整備もほとんどなされていません。稲作には用水路が必要ですが,水田に畔は作られていても,用水路はできていないのです。稲作ができるかどうかは,天候まかせであると聞きました。もとより湿地帯をそのまま水田に仕立てているだけです。
コメの値段は,日本の10分の1以下,それほど人件費が安いわけです。人口増加が著しく,労働力に不足がないため,農業の機械化が進まないと考えられます。
 しかし,これからさらにマニラ市を中心に近代化・産業化が進むと,農村部から都市部への人口移動はさらに加速し,若者はみな都市へと流出するでしょう。農業の機械化の必要性が必ず高まると思います。そのときに,大地主が外国資本に農地を提供し,中国や韓国が機械化によって農業の効率性を高めようとすれば,現代版のエンクロージャーが実施されるかもしれません。多くの農民は,「農地改革」の実現を待たずして,農地から追放されることになるのでは?大地主が農地を外資に貸し付ける動きはすでに始まっています。
 これがどのくらいの速度で展開するかによって,経済社会の構造変動のありさまが左右されることになると思います。農地を追われる農民が抗議運動をするか,それとも農村には「農業労働者」が残され,大部分の人口は都市部へと移住していき,生産性の低い山地に,極端に貧しい人びとが取り残され続けることが想像されます。
 はたして,NGOはといえば,1980年代から活動を続けてきた第1世代が高齢期を迎え,後継者問題を抱えているところが少なくありません。かつてのように農民を組織して「農地改革」を精力的に勧める人材が不足しています。優秀な若者は,大学や専門学校を卒業してから,海外へと出稼ぎに行くか,外資系企業に勤めることがステータスになっています。NGOに身を投じて低い所得に甘んじる若者は少なくなりました。
 おそらくこの傾向は東南アジアの多くの地域に当てはまると思います。
私は3月9日からベトナムへ行き,アジアのNGO団体の活動報告研究会にて,これらの点を確かめてみたいと考えています。

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